札幌市の中心部に「狸小路(たぬきこうじ)」というアーケード街があるのはご存知でしょうか。
ここに、昔からこじんまりとした神社があります。
少し変わった神社なのですが、私が物心ついた頃から様子を変えることなく普通にそこにあったので、今まであまり意識したことがありませんでした。
つい最近、ふと「あれ?あの神社って結局何なの?」という思いが過って、早速確かめに行ってきました。
『本陣狸大明神社(ほんじんたぬきだいみょうじんじゃ)』
所在地 北海道札幌市中央区南2条西5丁目
御祭神 本陣狸大明神(ほんじんたぬきだいみょうじん)
社格 なし
例祭日 8月第1土曜日
鳥居 なし
社殿様式 なし
【由緒】
狸小路100周年を記念して当初狸小路四丁目に建立されました。 その後、移転され現在は狸小路五丁目にあります。写真右手の「狸」には八つの徳(ハ徳)があるといわれており(例えば「大福帳をなぜると商売繁盛」「お腹をなぜると安産」)日々多くの参拝者で賑わっております。正月二日の「初狸祭」、8月第一木曜日から始まる週の土曜日の「狸ハ徳例大祭」等はこの本陣狸大明神社前で行なわれます。(狸小路商店街HPより)
狸小路、正式名称「札幌狸小路商店街」は北海道で最古の商店街の一つと言われています。(「一つ」ということは他にも最古と呼ばれてるところがあるのか?)
規模は道内では最大級とされ、現在は7ブロック(南2条西1丁目〜7丁目。一時期は10丁目まで含まれていた)で、総距離が約900m。
店舗数は約200軒の全蓋アーケード(スイッチひとつで開けられます!)を持つ商店街です。
ちょっとした神社だし、記事もサラッと終わるな〜と思っていたんですが、調べてみると意外や意外!
生まれも育ちも札幌の私ですが、知らないことがたくさんありました。
狸小路の歴史は147年前に遡ります。
約150年前といえば、前回の円山稲荷社の記事でも触れましたが、北海道は開拓使の時代。
明治政府が開拓使を設置して、札幌に本庁舎を移転した1871年(明治4年)、現在の南1条〜南3条界隈に町屋や飲食店が栄えました。
1873年(明治6年)には、すでに現在の西2丁目から西3丁目の一角が「狸小路」と呼ばれるようになっていました。
今では国内有数の歓楽街となった公娼(昭和21年に廃止)のススキノに対して、私娼の狸小路という形でこの歓楽街は賑わっていきました。
後に物品販売業者なども増え始め”商店街”としての趣が色濃くなります。
その頃になると、狸小路発展の一助でもあった10件ほどの白首屋(ごけや。「ごけ」は白粉(おしろい)を首まで塗った娼婦のこと。”伝説”の横浜の白塗りのメリーさんを想像していただけると分かりやすいでしょうか)は、1891年(明治24年)にススキノの南のはずれ(恐らく現在のラブホテル街)に隔離されてしまいます。(商店街に娼婦は似つかわしくないという理由からだと思います)
その後もビアホールの開店や活動写真(明治・大正期における映画の呼称)なども活発になり映画館ができ、商店街の範囲も広がりを見せましたが、太平洋戦争により点灯看板やネオンの撤去、金属回収などの他、建物疎開(強制疎開)も行われて狸小路は次第に静まりかえります。
戦後は建物疎開跡などを利用して闇市が起こり、キャバレーやストリップ劇場ができ(どちらも今はありません)、徐々にかつての活気を取り戻していき現在の形へと発展しました。
毎年、歳末恒例の大人気イベント「現金つかみどり」が誕生したのもこの頃でした。(景気が良かったんだな!笑)
当時は100円札、現在は1000円札で、選ばれし者のみが片手に掴み取れるだけ掴み取ることができるアツいイベント!
(画像は狸小路商店街HPからお借りしています)
私が幼い頃は、クジの当選者が現金を掴み取るだけのイベントだった気がしますが、最近では日ハムの選手をゲストに迎えたりして更に賑やかなイベントになってるようです。
1973年(昭和48年)には「狸小路百年記念祭」が開催さます。
ここでいよいよ!
その記念として4丁目に「本陣狸大明神社」(通称:狸神社)が建立されるわけです。パチパチパチ!(後に現在地の5丁目に移設)
こちらにお祀りされているのは、本陣狸大明神(ほんじんたぬきだいみょうじん)という妖狸(化け狸、古狸とも)です。
商店街組合の人の遊び心だろうと今日の今日まで思ってきましたが、実はこの本陣狸大明神にはしっかりとした系図がありました!(笑)
(陣狸大明神様ごめんなさい)
本陣狸大明神は、由緒正しき妖狸、八百八狸・隠神刑部(はっぴゃくやたぬき・いぬかみぎょうぶ)の家系です。
(画像は狸小路商店街HPからお借りしています)
隠神刑部は松山城を守護していたという妖狸で、「八百八狸(はっぴゃくやたぬき)」の異名は808匹の眷属を引き連れていたことによります。
名称の「刑部」は、松山城の城主の先祖から授かった称号で、城の家臣たちや土地の人々からも信仰されていたそうです。
また、 四国最高の神通力を持っていたとも言われていて、現在も愛媛県松山市で祀られていいます。
実は四国には狐の伝説は殆どなく、狸の伝説が多いんだそうです。
それというのも、実は弘法大師・空海が(また空海絡み!)の仕業らしいんですが…
四国88ヶ所の霊場を開基した時、悪さばかりする狐を追い出す代わりに、どこか憎めない狸を御使いのために置いた、という説があるんです。
空海さんなら狸ともお話できそうなので妙に納得。
また、隠神刑部はジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」で一際存在感を放つ長老狸として出演しています。
そんなメジャーな妖狸の息子である本陣狸大明神は、上総守・証和大明神(かずさのかみ・しょうわだいみょうじん)の血を引くかずさ御前と結婚しています。
証和大明神は、
「♪しょ しょ しょうじょうじ しょうじょうじのにわは〜」
という童話、「しょうじょうじのたぬきばやし」の舞台となった、千葉県にある証城寺(しょうじょうじ)の伝説に残る妖狸です。
どんな伝説なのかなと記事を読んでみたら、ちょっと悲しいお話でした(T-T)
「ある夜、證誠寺の住職が目を覚ますと、庭で狸たちが輪になって腹を叩きながら踊っていました。面白がって住職も毎晩一緒になって踊ってたのですが、ある時から狸が姿を消してしまいます。不思議に思い狸を探していると、腹を叩き破って死んでいる親玉の狸を見つけます。住職は可哀想に思って弔い、そこに狸塚を建てました」
というお話。
か、悲しい…
この狸塚は今でも残っているそうです。
で、その娘のかずさ御前は、1973年に證誠寺で愛媛県松山市出身の本陣狸大明神と結婚式を挙げた後に、この狸小路商店街に共に連れ添ってやってきました。
その際、狸小路では市民が太鼓や御神輿などで盛大にお迎えしたそうです。
本陣狸大明神社の中をよく観察するとその中に、植物が大事そうに守るように、小さなお社があるのを見つけました。(何十年も札幌に住んでて初めて発見しました!)
恐らくこの中に本陣狸大明神とかずさ御前がいらっしゃるんですね。
本陣狸大明神とかずさ御前の間には、鶴の宮・藻里豊姫(つるのみや・もりとひめ)と真狸(まり)という娘がいます。
藻里豊姫は、北海道登別市でお祀りされている蝦夷守・和登狸大明神(えぞのかみ・かずとたぬきだいみょうじん)へ嫁ぎました。
真狸は、2003年に愛媛県松山市の狸平(りへい)へ嫁いでいます。
この狸平との結婚式は松山市内のデパートで行われました。
実は、この2年前の2001年2月に、松山銀天街・大街道商店街振興組合連合会と狸小路商店街の姉妹提携が結ばれたそうです。
この式典を正式に本陣狸大明神社前で執り行ったとか。
真狸と狸平の結婚が2つの商店街の結びつきをより一層深めた、ということですね(^-^)
このように各地にいる狸様を巡る旅も面白いかもしれませんね!
いつかやってみたいです(^o^)
この狸の像はただの地蔵ではなく、「狸水かけ地蔵」です。
「狸水かけ地蔵」の右にある小さな手水舎から柄杓で取った水をかけるとご利益をいただけて、各部を触れるとそれぞれ8つの徳があるとされています。
「狸水かけ地蔵」の左の立札に説明書きがあります。
『狸地蔵八徳』
一、 頭に手を触れば、知恵を授かり、学業上達す
二、 目鼻をさすると、他を抜き合格、当選、就職きまる
三、 肩から胸をさすれば、恋愛成立、良縁をさずかる
四、 太鼓腹をなでると、安産、育児疑いなし
五、 通帳にさわれば、信用を高め、名声を得る
六、 杖をこすれば、交通安全、災難を除き、幸運を導く
七、 前へ金をたたけば、商売繁盛、金運開く
八、 尻尾を押さえると、回春旺盛を増す
南無本凡狸益 敬白
敬白(けいはく)とは、謹んで申すこと。
「南無本凡狸益 敬白」とは、南無本凡狸益(なむぼんりやく)を謹んで唱えることを指してるのかな?
長い年月の間にたくさんの人に撫でられ水を注がれて、「狸水かけ地蔵」もこんなに年季が入った感じになりました( ´∀`)
御神籤の初穂料は20円。
引いた御神籤を植木に結ぶのは禁止されています。
(幾つか結ばれているけど、これは禁止行為)
左側に3本の鉄の棒が設置されているので、こちらに結んでくださいね。
神社の奥には社額の代わりに本陣狸大明神(多分)を金色で象ったものがありました。
よ〜く見ると裃を着ていますね(^-^)(シモは着てないか笑)
裃は江戸時代の武士の礼服なので、妖狸は江戸時代に信仰が深められたのが分かります。
何だか可愛らしくて愛嬌があります♪
大きな提灯も一つ吊されていて、この提灯にも本陣狸大明神の絵が書いてあるのですが、それが見える角度がから撮るのを忘れてしまいました!(>_<)
本陣狸大明神社では、例大祭の他に、「初狸祭」を毎年1月2日に執り行っていて、お屠蘇もいただけますよ♪
狸小路を歩いていると、至る所に狸のキャラクターがあり目に止まります。
この子の名前は「だっこポン」。(ちゃんとマスクしてる)
可愛いのでリンクをクリックして、だっこポンのプロフィールを見ていってください(*´∀`*)
8月第1土曜日の例大祭の「狸八徳例大祭」では狸小路全部が華やかに装飾されます。
この時にはちゃんと御神輿も出ますし、上部から大きな狸のバルーンなども吊り下げられ、とても賑やかになります。
そうそう、狸小路の名前の由来について。
様々な説がありますが、1934年(昭和9年)の「北海タイムス」誌で、「東座が切掛になって一杯酒の店が出る、白首(ごけ)が出だすという按排(あんばい)で、それ迄一帯の大ヤブであった地が次第に賑わって来た(略)。徒(あだ)に付けた白首小路、則ち狸小路の名がその儘本名になってしまったんだから面白い。大ヤブに出る狸で、狸は白首の異名であった」と語られています。
言葉巧みに男を誘う女たちを狸に見立てた、というお話です。(諸説ある中の一説)
本陣狸大明神が守護する、そんな狸小路商店街ですが、かなりコアなお店があったり、全体の雑多な雰囲気や怪しげな路地がワクワクする感じで私は結構こういう感じ好きですね〜( ´∀`*)
飲み歩きが好きな方にも堪らない場所だと思いますよ!
ススキノに飽きた方も是非どうぞ!(笑)
こちらでストリートビューのように移動しながら狸小路内の散策ができます↓
神社の紹介が商店街の紹介みたいになってしまいましたが、札幌にお立ち寄りお際は、狸小路散策も一緒に楽しんでみてくださいね。
今は新型コロナウイルスへの対策として、店外にもテーブルが置かれちょっとしたテラス感も味わえたり、新たな楽しみ方が再発見されたような感じもします。
こんな時だからこそ、プラスの発想転換も大切ですよね♪
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以前歩いたときに見かけて興味を持ちました。詳細を知ることができて満足です^^
狸の名の由来がいかにも人間臭くて好きです。
雷電さん、いつも読んでいただき、コメントもくださりありがとうございます(*´ω`*)
活力になります!
狸小路の本陣狸大明神、見たことがあったんですね(=´∀`)
子供の頃からずっとあの場所に当たり前にあったので、今まできちんと調べたこともなかったんですが、こうして探ってみるととても内容の深いものでした。
系譜まであるなんて!(*≧∀≦*)
新たな場所に移設されてからまだ行ってないので、近々様子を見てこようと思います♪